Bon anniversaire
麗愛は立ち止まって伯に訊ねる。

伯は背が高い。百五十センチほどしかない麗愛は、伯をいつも見上げなければならない。

伯のきれいな目が、どこか不安げな麗愛を写す。その刹那、そのきれいな目が閉じられ、麗愛の唇にふわりと柔らかな感触がする。

「先輩…!」

また、麗愛の胸が高鳴る。何度、伯にときめいたのだろう。回数なんてわからないほど麗愛は伯に恋をしている。

伯は、麗愛の頰を包んで何度もキスをする。もう夜になりかけているとはいえ、ここは外だ。誰かに見られると恥ずかしい。

麗愛は顔を真っ赤にしながら、伯のキスから逃れようとする。しかし、伯が麗愛を離すことはなかった。

「……先輩、ズルいですよ」

やっと解放された後、麗愛は伯から目をそらし先ほどまで触れ合っていた唇にそっと手を当てる。

本気で好きだからこそ、不安になるのだ。自分だけが燃え上がっているのではないかと。

今だって、麗愛の心臓はうるさいくらいに高鳴っていて麗愛自身にすら止めることなど不可能だ。
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