愛を捧ぐフール【完】
 無邪気な笑顔を見せたテレンティア様の言葉が、とても痛かった。
 でも、そう遠くない未来いなくなってしまう私の後を、無邪気なふりをした彼女が務めるなら、大丈夫だなと漠然と思った。


「……ええ。クリストフォロス様をよろしくお願いします」


 ちゃんと私、微笑みを作れていただろうか。泣きそうになっていなかっただろうか。
 テレンティア様は虚をつかれたように少しだけ目を見開いたが、すぐに頷いた。


「勿論です!だから、エレオノラ様はゆっくりご静養してて下さいね!」

「ええ……、ありがとう」


 胸の底からドロドロした粘着質なものが這い上がってくる。首が締まったように、息がしづらかった。


 私の言葉にテレンティア様は不思議そうに首を傾げる。猫目がきょとんとしたように瞬いた。


「あ……ごめんなさい。クリストフォロス様に沢山お会い出来るだなんてはしゃいじゃ駄目でした……。エレオノラ様は大変なのに」

「いいのよ」

「でも、エレオノラ様もクリストフォロス様の事がお好きなの……ですよね?」

「ええ、勿論」
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