愛を捧ぐフール【完】
 示し合わせたように、ちょうど良くクリストフォロス様が私の部屋に入ってくる。


 テレンティア様のクリストフォロス様への呼び方が変わった事に違和感を覚えたが、それよりもクリストフォロス様がテレンティア様を視界に入れた途端、柔らかい表情が一転して厳しいものに変わった方が深刻だった。


「陛下!私は、エレオノラ様のお見舞いに」

「部屋で大人しくしていろと言っていたはずだ」

「私はエレオノラ様の事が心配で……」

「エレオノラに構うなと言っておいた筈だが?」

「でも……」


 めげずに言おうとするテレンティア様に、クリストフォロス様は深々と溜め息をついた。腕に付けた重そうな腕輪を外しながら、テレンティア様を見たクリストフォロス様は間違いなく国王の顔をしていた。


「テレンティア。私が言っているのはお願いじゃない。命令だ」


 テレンティア様の瞳に浮かべた涙がポロリと落ちる。
 彼女はもう何も言わずに、クリストフォロス様と私に一礼して部屋から足早に出て行った。


「すまないね、エレオノラ。余計な気を遣わせた」

「い、いいえ。大丈夫です……」
< 106 / 285 >

この作品をシェア

pagetop