愛を捧ぐフール【完】
 堂々と妻に会いに来る事の何が悪いと言い放つファウスト様に、私は顔を顰める。

「ファウスト様。ファウスト様が私の夫だったのはもう随分昔の事です」
「僕は離婚した覚えはないけれど」
「離婚した覚えがなくとも、私達は今はもう赤の他人なのです」
「離婚してないから、まだ僕達夫婦だよね」

 有無を言わせぬ清々しい笑を見せる彼に、私は屁理屈をこねないで下さいと深々と溜め息をついた。

 彼はこの王国の王太子様。それは昔と変わらない。

 ただ、その隣に立つべき妻(ひと)が私でないだけで。
 彼の婚約者である公爵令嬢は、とても美しい人なのだと聞いた。そして勉学も芸術にも秀でた才女なのだという。

 だから、しがない男爵令嬢に構ってても、ただの時間の無駄遣い。
 私じゃファウスト様を国王にしてあげられる後ろ盾も力もない。

 それに婚約者である公爵令嬢がこの事を知ったら、どんなに傷付くか。

 きっと、昔の私だったら泣いていた。
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