愛を捧ぐフール【完】
 いけないことだと知っていても彼を強く突っぱねられないのは、私自身この状況に喜びを感じているから。

 私の心の奥深くでクリストフォロス様に会えて嬉しいと、浅ましい自分が恋をしている。

 それはきっと彼も気付いているんだろう。

「そろそろ時間だ。また来るよ」
「いいえ、駄目です。もう来てはいけません」
「つれないなあ」

 苦笑しながら、ファウスト様は私の耳の後ろへ手を回して自分の方へと引き寄せる。
 ファウスト様の胸の中に飛び込んだ私は、間近に触れる温もりに固まった。

「ふふ。君はいつまで経っても初心だね。

ーー夫婦だった頃は色々したのに」

 耳元に吹き込むようにして、囁かれたその言葉に一気に体温が上がった。ファウスト様ら余裕そうにクツクツと笑いながら、私の頬にキスを1つ落とす。そして、ヒラヒラと手を振って再び窓から出ていった。

 私は無意識にキスをされた頬を手のひらで覆う。昔も今も、中は同じ人だからか仕草も同じだ。
 顔も別人なのに、見せる表情は昔と変わらずそのままだったりする。

 本当、それが心臓に悪いくらい痛かった。
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