愛を捧ぐフール【完】
「僕は絶対に君を諦めない。
 君が君の幸せを諦めると言うのなら、僕が足掻き続ける。だって僕達は、この時代にちゃんと生きているんだから」

「……っ」


 私の手にキスを1つ落とし、誰もが見惚れる美しい微笑みを私だけに向けて、ファウスト様は窓から身軽そうに出ていった。


 断れる訳がないのだ。
 本当にこんな隠れた逢瀬がどんなに駄目な事だと知っていても、かつて身を切るような痛みを味わってまで愛して、未だに燻る想いを向ける彼の事を拒みきれるなんて、無理だ。


 きっとそれは、彼にも伝わっている。
 私に無理強いをする人ではないから。




「クラリーチェお嬢様」

「……っ」


 いつの間に部屋に入ってきたのか、侍女のビアンカが無表情で私の後ろに立っていた。


「びっくりしたわ、ビアンカ。いつからそこにいたの?」

「つい先程入ってきたのですが、クラリーチェお嬢様がぼんやりなさっていたようなので、お声掛けをと思いまして」

「そ、そうなの……。ごめんなさい」

「いえ、部屋の中が冷えてしまいますので、窓を締めてもよろしいでしょうか?」
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