愛を捧ぐフール【完】
 敵意の滲む声に私は反射的に立ち上がり声の主へと向く。
 さっきまで見ていた紅色の瞳。だけれどそれは温かさなんか微塵もなく、冷え冷えとする色を灯していた。


「アウレリウス公爵……?」

「いかにも。お久しぶりですね。エレオノラ王妃様」


 何故、この人は私の前世の名前を知っているの?


 美しい顔に嘲笑浮かべ、アウレリウス公爵は私を冷たく見据える。


 分からない。私の前世を知っているという事は、きっと私達と同じアルガイオの人間だ。
 だけど彼の前世が誰であったか、全く分からない。


「そのお顔は……私の事が全く分からないという感じですか」

「……ええ」

「おやおや……、私はとても悲しいですよ」


 低い声でクツクツと笑ったアウレリウス公爵は、一瞬で凄絶な形相に変わって私を睨み付けた。
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