愛を捧ぐフール【完】
 馬車の中でセウェルス伯爵は今日の社交界について説明してくれた。
 今日の社交界の会場は、第二王子派のフィリウス侯爵家主催の舞踏会らしい。


 別に王太子派と第二王子派と分かれているからと言って、表面上まで関係が悪いなんてことはない。現に王太子と第二王子どちらも来るらしい。

 そして、今日の社交界も私はセウェルス伯爵と一緒に行っているが、レオーネ男爵と正妻とその子共達も招待されているのだと。


 そうか、ファウスト様が来るのか。


 婚約者である公爵令嬢と踊るんだろうか。
 一緒に楽しく微笑み合うのだろうか。ずっと公爵令嬢の側にいるんだろうか。



 私はそれを、いつものように見ていられるのだろうか?


 社交界なんて前世でも立場的によく出ていたが、一体いつぶりだろうか。前世と今世のマナーが合っているか心配になる。前世でも最期の方はしばらく行っていなかったし。


「クラリーチェ。不安なのかい?」

「あ……、いえ。そういう訳では……」


 私が緊張していると思ったのか、セウェルス伯爵はにこにこと穏やかに笑う。


「心配はいらないよ。君は私の隣で微笑んでいたまえ」

「はい」


 私の些細な心配事は、にっこりと微笑んで誤魔化した。
< 19 / 285 >

この作品をシェア

pagetop