愛を捧ぐフール【完】
 そっと目を伏せると、今でも色鮮やかに思い出す。
 僕を称号ではなく、ずっと名前で呼んでいた彼女を。


 昼も夜も動いて、気も、身体も疲れている筈なのに気持ちが落ち着かなくてろくに眠れやしない。
 それでも、長年通っていたおかげがここだと少しは気が落ち着く。


 部屋の主がもういないことを、何度も突きつけられながら僕はそれでもここに来るしか日々を乗り切る術(すべ)がなかった。


 側室である隣国の王女との縁談を持ってきたペルディッカスに近い者達は、エレオノラが亡くなる前後から全く通わなくなってしまっていた身重の側室の元へ通うように言ってくる。そして、それとなく側室を王妃にするようにとも。


 ペルディッカスに近くない者は、自分の娘や所属している派閥の中心の貴族の娘を新たな側室として推したりしてきた。


 どうして僕を1人きりにさせてくれない?
 もう誰とも結婚したくはないのに。
 会いたい人の元に行きたいのに。


 僕が国王だから、王家の血を残さなければ。


 分かりきっている。全て、分かりきっている答えだ。
 僕が国王として異端なのかもしれない。


 それでもいい。国王なんてやめてしまいたい。
 愛した人を傷付ける事しか出来なかった僕には、荷が重すぎる。


 沢山の希望を背負った肩が、潰れてしまいそうだった。
 沢山の期待を背負った心が、軋んで悲鳴をあげていた。
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