愛を捧ぐフール【完】
 でも、でもな、大事な妹が華奢な身体であんなに殺伐とした神経の削られる宮殿にいるより、実家に帰っていた方が穏やかに、もっと長生き出来たんじゃないかって、残された家族としてはどうしても思ってしまうんだ。


 エレオノラの死後、一方的に詰なじった言葉に嘘偽りはない。
 それがあいつとの関係を修復不可能にしたとしても、どうしても納得出来なかった。


 そんな俺が今更どの面下げてあいつの元に行くというのか。それでも仕方ない。オリアーナを、クラリーチェを助ける為だ。


 唾を飲み込んでノックしようとした時、中から穏やかな懐かしささえ感じる調子の声が聞こえた。


「扉の前にいるのは誰だい?」

「……サヴェリオ・フィリウスです。……っ、ファウスト殿下に用があって参りました」

「フィリウス侯爵の?珍しいね。いいよ、入ってきて」


 心底驚いたように入室を許可した声に、ほんの僅かな安心と緊張にノブを持つ手が微かに震えた。


「失礼します。ーーアルフィオ殿下?」


 緊張と共に入った室内には、ファウスト殿下と今の主であるアルフィオ殿下が二人揃ってお茶を飲んでいたらしく、テーブルに茶菓子が広げられていた。
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