愛を捧ぐフール【完】
 最初はただの気まぐれだった。
 俺が妹(エレオノラ)を失って落ち込んでる時に、故人の話をしたかっただけだった。たまたま相手がエレオノラの近くで仕えていたイオアンナだっただけだ。


 いつしかそれは酒に酔った一時の勢いで共に夜を過ごし、それに嵌(はま)ってしまった。
 子供が出来た時、イオアンナを捨てようだなんて発想はなかった。……いや、手放すだなんてそんな選択肢すらなかった。


 大貴族の当主と一介の使用人。
 沢山苦労しただろうに。身分差の激しい当時のイオアンナに対する風当たりは強くて、俺の目が届かない所でも色々あっただろう。


 それでも死ぬまで俺に付いてきてくれた。俺との子供を慈しんで、立派に育て上げて、ずっと俺の側にいてくれた。


 今も変わらない、見れば心配事なんて飛んでいきそうな弾ける笑みは昔から俺の支えでーー。


 ああ、そうだ。変わらない。ずっと。
 俺がフォティオスだろうと、サヴェリオだろうと、名前が変わっても、俺が俺である限り、根本から変わることはない。
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