愛を捧ぐフール【完】
「やあ、セウェルス伯爵」
目立つ集団の中心にいた人が、セウェルス伯爵に気付いて向こうから声を掛けられた。
たまに来るあの人の穏やかな声に、ドキリと心臓が痛い程高鳴った。
「これはこれはファウスト殿下。お久しぶりです」
「久しぶりだね。セウェルス伯爵。……そちらの女性は誰だい?」
緩くウェーブのかかった柔らかそうな金髪は、光の当たり具合か今日は少し暗く見える。細すぎず、かといって太くもない鍛え上げられている身体。青空のような碧眼は穏やかな色を灯して、私を映した。
ファウスト様らしい人を目の前にして、不思議と私は心が凪いだままであった。
ーーこの人は、誰だ?
ファウスト様を前にするといつも前世(まえ)の私が教えてくれる。
愛して、愛して、愛し続けて、それでも掴めなかった幸せが、不幸に嘆いた私が叫ぶ。
それでもクリストフォロス様を愛し続けていると。この人だけだと。
「こちらは私の婚約者であるレオーネ男爵家のクラリーチェ嬢です。今日がはじめての社交界でして……」
目立つ集団の中心にいた人が、セウェルス伯爵に気付いて向こうから声を掛けられた。
たまに来るあの人の穏やかな声に、ドキリと心臓が痛い程高鳴った。
「これはこれはファウスト殿下。お久しぶりです」
「久しぶりだね。セウェルス伯爵。……そちらの女性は誰だい?」
緩くウェーブのかかった柔らかそうな金髪は、光の当たり具合か今日は少し暗く見える。細すぎず、かといって太くもない鍛え上げられている身体。青空のような碧眼は穏やかな色を灯して、私を映した。
ファウスト様らしい人を目の前にして、不思議と私は心が凪いだままであった。
ーーこの人は、誰だ?
ファウスト様を前にするといつも前世(まえ)の私が教えてくれる。
愛して、愛して、愛し続けて、それでも掴めなかった幸せが、不幸に嘆いた私が叫ぶ。
それでもクリストフォロス様を愛し続けていると。この人だけだと。
「こちらは私の婚約者であるレオーネ男爵家のクラリーチェ嬢です。今日がはじめての社交界でして……」