愛を捧ぐフール【完】
「今となっては取り戻せない前世過去よ。わたくしはビアンカ。もうただの侍女であるビアンカでしかない。貴女ももう、大貴族の娘でも王妃でもない。しがない男爵令嬢に過ぎないのに、貴女は王太子様とまた前世に縋(すが)るつもりなの?」


 過ぎてしまった時間は取り戻せない。楽しかった前世も、辛かった前世も、私達は確かに歩んできた。


 私達の恋の犠牲にしてしまったテレンティア様も、私への愛を貫いたクリストフォロス様も、綺麗で美しいものではなくなってしまった愛を捧げ続けた私も、かつてアルガイオで生きた多くの人が不幸になった。


「……それでも私は、あの人を愛し続けるのをやめられない」


 私をいつも必要としてくれて、私に沢山の気遣いを見せてくれた彼以上に全身全霊で私を愛してくれる人は前世でも、今世でもいなかった。


 私も、ファウスト様も縋っているのかもしれない。
前世の幸せだった過去に。私が病気になる前に。


「……どうして?どうして、そこまでして……」


 愛を貫こうとするの?
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