愛を捧ぐフール【完】
 陛下はわたくしにクリストフォロス様なんて呼ばせない。
 陛下は自分の事を〝僕〟だなんて言わない。
 陛下はあんなに柔らかい言葉遣いを、1人の青年のような言葉遣いをわたくしの前でしない。


 何より全部、陛下の全部が、王妃を愛していると告げていた。


 勝手に王妃より女として優れている気になっていた。けれど違ったのだ。


 そして気付いた。
 陛下は確かにわたくしに気遣ってくれた。でもそれは、わたくし以外の誰にでも同じ事をしていたのではないかと。


 陛下に、クリストフォロス様に必要とされる証が欲しい。王妃ではなく、わたくしを。


 それは陛下の子供を懐妊した後も、わたくしの心を蝕んで拭えない。どれだけ陛下に抱かれても、どれだけの時間を経ても変わらない。


 わたくしは焦ってしまった。
 彼の隣に堂々と立てる王妃になりたいと。王妃がいなくなってしまって、悲しんでいたはずの彼の心情を考える事が出来なかった。


 だから、クリストフォロス様が壊れた時、わたくしの報われない彼への愛も壊れてしまったのだろう。


 わたくしの独りよがりになってしまった愛をクリストフォロス様が受け入れてくれる訳が、なかったのに。


 わたくしに愛された彼女の気持ちは分からない。
 そして、若くして亡くなってしまった彼女の気持ちもわたくしには分からない。


 きっとわたくしとは分かり合えないと結論を出した彼女と、同意見だ。
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