愛を捧ぐフール【完】

愛を悔いるフール(サヴェリオ)

 自分の中にある違和感が形を成したのはもう随分と前の事だった。
 幼い頃から時々感じる既視感。自分の知らない記憶が不意に蘇る時がよくあった。


 それが前世の記憶だと気付いたのは、第一王子であるファウスト殿下と初めて会った時だった。


 驚きなんてものじゃない。
 一目見た瞬間、どうしても、どうやってもこの男が許せなかった。そして、過去の強い怒りと自身に対する無力感が一気に蘇った。
 そして、激しい後悔も。


 前世の俺は今世と同じくそれはそれは高貴な家の出だった。
 美しく優しい両親にとても愛らしい妹。優秀で人の出来た親友は、住む国の1番尊い家系の直系で、国一番の美少女と名高い妹の婚約者だった。


 正にこの世の幸福と羨望と期待を全て集めたかのような周囲の環境に、俺は大人になってもずっと浸り続けるのだろうと欠片も疑わなかったのである。


 とてもとても可愛がった妹が、仲の良い親友の元に嫁いで不幸になってしまっただなんて、想像もつかなかったのである。


 無邪気で真っ白で、素直だった彼女の微笑みが、本心を隠して、美しく折れそうに儚いものになるだなんて、思ってもみなかったんだ。
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