愛を捧ぐフール【完】
「セウェルス伯爵が睡眠薬を飲ませた、と言っていたんです」


 フォティオスお兄様は、半ば閉じかけた瞳でファウスト様を見上げる。その様子を見たファウスト様は眉間に皺を寄せた。


「……なるほど。ただの睡眠薬ではなさそうだ。ラウル」

「はい」


 いつの間にいたのか。
 人混みに紛れるとすぐに埋もれてしまいそうな、そんな印象のない男の人が私達のすぐ近くに立っていた。
 その人がフォティオスお兄様を運ぼうと、手をかける。


「……クラリーチェ。昔、お前は幸せだと言った。クリストフォロスに愛されているから、と」

「……はい」


 私エレオノラが死ぬ前、フォティオスお兄様と交わした最後の会話だった。
 意識も朦朧としていて辛いはずなのに、フォティオスお兄様は最後の意地とでもいうように私に問い掛けた。


「お前の幸せは今、どこにある?」

「私の幸せは……」
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