愛を捧ぐフール【完】
 今世の私は男爵の愛人の娘で、誰にも必要とされていなかった。でもファウスト様と再会して、彼だけが私を望んでくれた。彼だけが、私の今世の唯一の存在肯定だった。


 だから、ファウスト様の為に自ら身を引こうと思った。
 足でまといにも、嫌われたくもなかった。醜くて愚かな私の存在も、知られたくはなかった。


 それだけファウスト様が好きで、大事だった。


 答えはもう、とうの昔、クリストフォロス様が私(エレオノラ)の婚約者になっていた時から出ていたのだ。


「私の幸せは、ファウスト様と共にあります」

「……そうか」


 幸せになれ、と満足そうにフォティオスお兄様は微笑んだ。そしてファウスト様に、「許せないけど、妹を、頼む」と告げると、糸が切れたように目蓋を下ろした。


「大丈夫。眠っているだけだ」

「フォティオスお兄様……」


 悲鳴を上げそうになったのを察知したのか、ファウスト様は私の背中に手を回し、宥めるようにぽんぽんと叩く。


 ラウルと呼ばれた人はフォティオスお兄様を背負って、空いた窓から外へと抜け出ていった。そのまま医者の所に運び込むらしい。
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