愛を捧ぐフール【完】
 ファウスト様の骨ばった手のひらが私の頬に触れた。
 存在を確かめるように、私の輪郭をなぞる。


「ファウスト様。私、ファウスト様に言いたい事があるんです」


 イオアンナが背中を押してくれた。
 フォティオスお兄様が認めてくれた。
 二人共、私の幸せを思ってくれていた。


 誰もが眉を顰めるような、大それた願いだった。
 それだけ、今世の私とファウスト様の身分差は大きかった。


 どうしても、二人一緒になって幸せになれる未来なんて見えなかった。


 だから私は、自分の幸せを諦めた。


「ファウスト様。ずっとずっと昔から、私は貴方を愛しています。貴方が私のことを愛して下さっている事も、分かっています」


 だけれど、と続けようとして、私は唇を塞がれた。
 触れるだけのそれは、今まで何度も重ね合わせた彼の唇。
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