愛を捧ぐフール【完】
 ファウスト様は私の腰に手を回して引き寄せた。


「……そう、だったのですね」


 いつも無機質だった声。それがほんの僅かに震えていた。
 侍女服をキッチリと着こなし、無表情を保ちながらゆっくりとビアンカがアウレリウス公爵の後ろから現れる。


「お父様!!」


 ビアンカに連れてこられたらしい、イオアンナが息を切らせて小走りで近寄ってくる。白い肌には汗が滲み、金髪が濡れて張り付いていた。


 フォティオスお兄様の苦しそうな姿を見るなり、アウレリウス公爵と同じ色の瞳を大きく開く。


「オリアーナ、何故ここに……?ビアンカまさか、裏切ったな?!」

「さて?何のことでしょう?そもそも、わたくしの主はアウレリウス公爵ではないのですが」


 冷たく返すビアンカに、アウレリウス公爵が顔を真っ赤にした。


 私もびっくりしている。だって、ビアンカはアウレリウス公爵側の人間だと思っていたから。
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