愛を捧ぐフール【完】

愛を知らぬフール(アルフィオ)

「婚約破棄の事例……理由はやはり、相手の不貞、両家の合意反故、相手の死亡、病気辺りしかないな……。難しいな」


 幼い頃より付き従ってくれている同い年の側近は、兄に対してのみ気が荒ぶるが、それ以外では犬のように付いてきてくれる良い奴だ。


 普段は滅多に我が儘なんて言わないその側近が、同い年の女の子を見初めたのかとんでもない難題を持ち出してきた。


 曰く、既に決まっている婚約を破棄したいと。


 他のことであればかなり歓迎できたのかもしれないが、これは相当難しい問題である。
 だが、先日あったフィリウス侯爵家主催の舞踏会で幼馴染みは、まるで幽霊にでも会ったような顔をしていた。


 クラリーチェ嬢が社交界に顔を出すのは初めてだったらしいが、一体どこで会ったのだろうかと疑問に思う。
 凝視されていたクラリーチェ嬢は酷く居心地悪そうにしていたが、セウェルス伯爵はサヴェリオにもクラリーチェ嬢の様子にも気付いていなかった。


 いや、気付かないフリをしていたのかもしれない。第一王子派の中心であるアウレリウス公爵の近くにいる人物だ。


 ただの太った豚ではない。多分狸だろう。
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