愛を捧ぐフール【完】
 そうなのだ。愛人の娘なんて地位が低い故に蔑ろにされる事なんてよくある。
 現にこんなに優秀な兄上でさえ、母親が側室だからって、王太子になるのを反対されている。


 主に私の母上の実家を中心とした一部の古い貴族だけれど、完全に無視は出来ない。


 クラリーチェ嬢と自分の立場を重ね合わせているのだろう……と思う。ずっと兄上は寂しそうな表情をしているから。


 だって、サヴェリオも兄上も、クラリーチェ嬢はこの前の舞踏会が初めてだった筈だ。


 それならば何故、サヴェリオはあんなにクラリーチェ嬢とエヴァンジェリスタ伯爵との婚約を恐れている?


 どちらにせよ、サヴェリオには良い報告は出来そうになのだろうな、と感じる。


 話は終わったとばかりに背を向ける兄上に、私は1つだけ聞いた。
 ゆくゆくは政略結婚するであろう私にとって必要のない、大事な感情について。


「兄上は恋愛とはなんだと思いますか?婚約者であるオリアーナ嬢と仲はよろしいのでしょう?」


 予想外の質問だったらしく、誰の目から見てもびっくりした顔をした兄上は数度目を瞬かせた後に、どこか遠くへ想いを馳せるようにポツリと呟いた。


「恋愛ね……。自分自身が確かにここにいるって、感じられる事かな」
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