愛を捧ぐフール【完】
 上手く笑えていたかは分からない。


 隣国の王女様であるテレンティア様が側室として上がってから、クリストフォロス様は夜はそちらの方へと行ってしまうようになった。
 それでも、夜更け頃に私の元に来るらしい。


 らしいというのは、朝起きたらクリストフォロス様が私の隣で寝ているからだ。
 そして結婚したての頃から変わらずに、朝の弱いクリストフォロス様を私が起こす事になる。


 時々、クリストフォロス様から別の女の人の香水の香りがするけれど、気付かないフリをして無邪気に振る舞うのは慣れてしまった。
 でも毎回、胸の奥に少しずつ鉛が埋まっていくような感じがした。


 純粋で無垢で、一途にクリストフォロス様を愛していたのに。
 いつの間にか少しずつ少しずつ、愛が濁っていくような、そんな気がした。
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