愛を捧ぐフール【完】
 その時はすごくすごく幸せだった。

 私はクリストフォロス様のもので、クリストフォロス様は私を愛してくれている。家族も私を可愛がってくれていて、お金に困る事なんてない。

 それだけが、幸せに満ちた環境が私の世界だった。



 初々しいカップルに誰もが微笑んで見守ってくれた。

 私は彼の隣に立つ為に、今までよりも更に努力した。勿論当時の女に教育は必要なくて、貴族の娘もそれは同様だったので、女としてのお淑やかさや煌びやかに着飾ったりだったけれど。


 国民も次代を担う私達の結婚を歓迎した。


 そう、私は疑ってすらいなかったのだ。
 クリストフォロス様と結婚して、一生彼と幸せに暮らしていくことを。



 そして、『愛してる』という言葉がどんなに残酷な鎖となって私を縛り上げる事になるか、


私はまだ知らなかったのだーー。
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