愛を捧ぐフール【完】
「イオアンナの言う通り、横になるわ。でも、こんなおめでたい事のすぐにクリストフォロス様のお心を煩わせる訳にはいかないわ」


 イオアンナにも多分分からないのだろう。政略結婚が当たり前のこの時代で、子供も産まずに王妃である私がおかしいのだ。それだけクリストフォロス様に愛されているという証なのである。


 だから私は、王妃として堂々とおめでたいと祝うべきなのだ。


 でも、クリストフォロス様の御子を宿したテレンティア様を見て、そんな事は到底言えそうになかった。


 寝台に入った私はイオアンナが部屋から出ていく音を聞いて、自分を守るように丸まる。途端に訪れてくる微睡みに任せてゆっくりと瞳を閉じながら思った。


 ああ、やっぱり少しだけ、疲れてしまったわ。
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