愛を捧ぐフール【完】
 ただでさえ、減らされていた公務がほとんど無くなっていった。重い身体を寝台から起こすので精一杯な日が増えてたからだ。


「…………はい」

「エレオノラ……」


 ゆっくりとクリストフォロス様の骨張った指が私の頬を滑る。顔が近付いてきて反射的に目を閉じた。
 唇が一瞬、重なった。


 ちゅ、とリップ音が響いて間近の彼を見つめる。
 物言いたげな薄氷色の瞳は迷うように揺れたが、やがてゆっくり身を離して「行ってくる」と切なそうに微笑んだ。


 もう彼はどこかで予感していたんだろう。
 私の身体を少しでもよくしようと、既にもう何十人という医者に見せていた。


 医者が変わる度に、ああ、またクリストフォロス様の期待に添えるような内容ではなかったんだなって理解する。


 流行病を患ってから、軽い風邪を引くだけで生死をさ迷うようになった。


 その度にクリストフォロス様は自分が痛そうな顔をする。風邪の私を看病したり、会える立場にいないから、風邪が快方に向かうとクリストフォロス様は私の存在を確認するように私を抱き締めて、無事を喜ぶのだ。
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