愛を捧ぐフール【完】
 午後から調子が良くなったので、部屋から出てゆっくり外を回ろうとイオアンナに提案した。
 イオアンナもその方がいいと快く同意して、数人の侍女と共に庭園へと向かう。


 宮殿の広い庭園の隅に設置された椅子に腰掛けていると、少し離れた所から賑やかな声が聞こえた。
 今日の公務は、庭園でのお茶会だったなと思い出す。


 流石にもう子供の産めない事は広まっていないが、私の身体が弱い事は広まっているだろう。隠し通せない程、私の臥ふせったり公務の取り止めが多すぎる。


 落ち込んでいく気分とは裏腹に、空はとても晴れやかな日だった。


 遠くの方で聞こえた筈の一部の数人の男女の声がこちらに向かってくる。ここは隠れた場所なので、お茶会に疲れた人が利用しようとしたりする。


 思わず私はやつれた姿を誰かに見せたくなくて、ゆっくりと侍女を連れて庭園の方へと移動した。代わりに私達がいた場所に数人の男女が談笑しながら現れ、椅子に腰掛ける。


 盗み聞きするつもりはなかった。けれど、その場に縫い止められるように足が動かなかった。
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