それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
………
……
エサの町、ヘイスター。人口は500人ほどの小さな町だ。
聞いてはいたけれど、本当に見渡す限りの大草原のど真ん中にその町はあった。
すぐそばにある国境は、小さな川がその役割を担っている。
国境を守る兵はなく、町の周辺はとても静かだ。
「なんか辛気臭せえところだなぁ」
ヘンリーが眉をひそめる。
普段の私ならすぐにたしなめるところだが、思わずうなずいてしまうほど、町は寂れていた。
町を守る門は度重なる戦争によってボロボロ。
戦争に巻き込まれたらいけないと、他の町から訪れる商人の姿はない。
住人たちはいずれもどこかの町を追い出された人ばかりらしい。まるで死んだ魚のような目をした人たちだらけだ。
当然、活気などあるはずもない。
しんと静まり返る中を私とヘンリーはマインラートさんに連れられて歩いていた。
彼は軍人としてこの町を『制圧』した経験があるらしく、町のことをよく知っているのだそうだ。
「あれは?」
見えてきたのは3階立ての古びた塔だ。
「こちらは監獄塔です。今は使われていないので入り口は固く封じられております。ですから出入りをするならはしごを二階の窓にかけるしかありません」
「へえ、そうなの」
「そしてその隣にあるのが、領主の館……。つまりリアーヌ様とヘンリー様がお過ごしになる館でございます」
マインラートさんが指さした館に目をやると、うわっ、と声が出てしまった。
寂れた町にしてはずいぶんと立派な木造の建物だからだ。
「領主の館が立派なのは、最期くらいは不自由なく過ごさせてやりたい、という帝国と王国からのせめてもの慈悲と言われております」
マインラートさんが悲しく笑いながら、そう教えてくれた。
「笑えねえよ」
ヘンリーが口を尖らせる。
マインラートさんは目を細めた。
「そうですね。失礼しました」
「……ったくよぉ。姉さんが何をしたって言うんだよ」
ヘンリーはマインラートさんに溜まったうっぷんを晴らそうと強く当たっている。
でもマインラートさんが悪いわけではない。
「いいのよ。ヘンリー。もうこうなっては嘆いても仕方ないもの」
「やいっ! 姉さん! 姉さんは悔しくないのかよ!?」
ヘンリーの矛先が私に向く。
私は首をすくめた。
「悔しい? 別に悔しくなんかないわ。だって議会の決めたことに口は挟めないもの」
「へんっ! どうせ『ピンチになったらジェイ様がどうにかしてくれるはずだわ!』なぁんて考えてるんだろ! まったくいつまでたっても妄想癖が治らねえな!」
「まあ! 妄想なんかじゃないわ。希望よ。わずかな可能性かもしれないけど、希望を捨てたらダメだって、クローディア様から教えられたもの」
そうよ。
これはとても大切な希望なの。
『彗星の無双軍師』ジェイ・ターナーは、その名の通りに彗星のように助けにきてくれるかもしれない。
私はそれだけを頼りに、ここまでやってきたと言っても過言ではない。
私はぐっと表情を引き締めて、領主の館に向かって力強く足を踏み出した。
……と、その時だった――。
「残念ですが彼がここにやってくることは、絶対にありえませんよ」
マインラートさんではない男性の声が背中から聞こえてきたのだ。
「えっ?」
振り返るとそこに立っていたのは、背が低くてちょび髭が特徴的な中年のおじさん。
彼はちょこんとお辞儀すると、低い声で続けた。
「なぜなら彼は投獄されてしまったのですから」
「ジェイ大佐が投獄……」
あまりの衝撃にグワングワンと脳が揺れる……。
「ええ。既に大佐の役もはく奪され、ジェイ・ターナーはいつ処刑されてもおかしくないのです」
この言葉を最後に、私は意識を失ってしまったのだった――。
……
エサの町、ヘイスター。人口は500人ほどの小さな町だ。
聞いてはいたけれど、本当に見渡す限りの大草原のど真ん中にその町はあった。
すぐそばにある国境は、小さな川がその役割を担っている。
国境を守る兵はなく、町の周辺はとても静かだ。
「なんか辛気臭せえところだなぁ」
ヘンリーが眉をひそめる。
普段の私ならすぐにたしなめるところだが、思わずうなずいてしまうほど、町は寂れていた。
町を守る門は度重なる戦争によってボロボロ。
戦争に巻き込まれたらいけないと、他の町から訪れる商人の姿はない。
住人たちはいずれもどこかの町を追い出された人ばかりらしい。まるで死んだ魚のような目をした人たちだらけだ。
当然、活気などあるはずもない。
しんと静まり返る中を私とヘンリーはマインラートさんに連れられて歩いていた。
彼は軍人としてこの町を『制圧』した経験があるらしく、町のことをよく知っているのだそうだ。
「あれは?」
見えてきたのは3階立ての古びた塔だ。
「こちらは監獄塔です。今は使われていないので入り口は固く封じられております。ですから出入りをするならはしごを二階の窓にかけるしかありません」
「へえ、そうなの」
「そしてその隣にあるのが、領主の館……。つまりリアーヌ様とヘンリー様がお過ごしになる館でございます」
マインラートさんが指さした館に目をやると、うわっ、と声が出てしまった。
寂れた町にしてはずいぶんと立派な木造の建物だからだ。
「領主の館が立派なのは、最期くらいは不自由なく過ごさせてやりたい、という帝国と王国からのせめてもの慈悲と言われております」
マインラートさんが悲しく笑いながら、そう教えてくれた。
「笑えねえよ」
ヘンリーが口を尖らせる。
マインラートさんは目を細めた。
「そうですね。失礼しました」
「……ったくよぉ。姉さんが何をしたって言うんだよ」
ヘンリーはマインラートさんに溜まったうっぷんを晴らそうと強く当たっている。
でもマインラートさんが悪いわけではない。
「いいのよ。ヘンリー。もうこうなっては嘆いても仕方ないもの」
「やいっ! 姉さん! 姉さんは悔しくないのかよ!?」
ヘンリーの矛先が私に向く。
私は首をすくめた。
「悔しい? 別に悔しくなんかないわ。だって議会の決めたことに口は挟めないもの」
「へんっ! どうせ『ピンチになったらジェイ様がどうにかしてくれるはずだわ!』なぁんて考えてるんだろ! まったくいつまでたっても妄想癖が治らねえな!」
「まあ! 妄想なんかじゃないわ。希望よ。わずかな可能性かもしれないけど、希望を捨てたらダメだって、クローディア様から教えられたもの」
そうよ。
これはとても大切な希望なの。
『彗星の無双軍師』ジェイ・ターナーは、その名の通りに彗星のように助けにきてくれるかもしれない。
私はそれだけを頼りに、ここまでやってきたと言っても過言ではない。
私はぐっと表情を引き締めて、領主の館に向かって力強く足を踏み出した。
……と、その時だった――。
「残念ですが彼がここにやってくることは、絶対にありえませんよ」
マインラートさんではない男性の声が背中から聞こえてきたのだ。
「えっ?」
振り返るとそこに立っていたのは、背が低くてちょび髭が特徴的な中年のおじさん。
彼はちょこんとお辞儀すると、低い声で続けた。
「なぜなら彼は投獄されてしまったのですから」
「ジェイ大佐が投獄……」
あまりの衝撃にグワングワンと脳が揺れる……。
「ええ。既に大佐の役もはく奪され、ジェイ・ターナーはいつ処刑されてもおかしくないのです」
この言葉を最後に、私は意識を失ってしまったのだった――。