それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
………
……
秋はとても忙しい季節だ。
メインは作物の収穫。
それに並行して冬支度も進めなくてはならない。
ちなみにヘイスターは皇都と違って水道だけではなく暖房設備も整っていないの。
だから大量の藁《わら》を集めてそれを発酵させることで暖房にするらしい。
生活の知恵ってやつね。
穏やかな秋の陽ざしのもと、この日も私は収穫や藁集めのお手伝いをしていた。
「リアーヌ様。いつもありがとうございます!」
「そろそろおやつの時間にしましょ」
「お茶もいれたよぉ」
ほのぼのとした雰囲気が心地いい。
するとそこに私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい! 姉さぁん!!」
ヘンリーだ。いつになく真剣な顔をしてこちらに近づいてくる。
「きゃっ! ヘンリー様よ!」
「ヘンリーさまぁぁ!!」
若い女性たちが目の色を変えてヘンリーに手を振る。
しかしヘンリーは彼女らにかまうことなく、一直線に私のもとまで駆けてきた。
肩で息をしており、なかなか顔を上げられないでいる。
何事もほどほどに、というのが信条のヘンリー。
なおもぜえぜえと息を切らしている彼の様子に、私はただならぬ気配を感じた。
「何があったの!?」
「こ、これを……」
ヘンリーはうつむいたまま右手に握られた一通の書状を差し出してきた。
私はそれを受け取る。
そして差出人を見たとたんに目を大きく見開いてしまった。
「これは……」
差出人の名前は「デュドネ少将」とある。その名前に見覚えはない。
だから私を驚かせたのは名前ではなく、名前の横に押された紋章だ。
鷹が大きく羽を広げているのがモチーフとなっているもの。
つまりリーム王国を表す紋章だったのである。
「もしかして……」
嫌な予感が走る。
急いで封を開けた。
そして中身を見た瞬間、ぐわりと目の前が歪んでしまったのだった。
『ヘイスターは当王国の領土であり、それをヴァイス帝国が不当に占拠している。ついては領主および兵の即刻退去を求める。もし要求がのまれなければ、武力をもってこれを制す。20日の猶予を与えるので、よく検討いただきたい。よい返事を待っている』
これは……。
リーム王国からの宣戦布告だ――。
くらりと立ちくらみがした。
「姉さん! 大丈夫か!?」
息を整えたヘンリーが私の肩を抱く。
少しだけ周囲の女性たちの目が冷たいのは気のせいかしら……。
私はヘンリーに微笑むと、彼の手から離れた。
「もう大丈夫よ。ありがとう」
「んで、どうするんだよ?」
「どうするって……。とりあえず王宮に報せなきゃ」
「じゃあ、俺が皇都に行ってくるよ!」
私はヘンリーの提案に対して首を横に振った。
彼はまだ17歳。使者としては若すぎる。
それとすぐにかっとなる性格も危うい。
私はそれらしい理由を並べて彼の申し出を断った。
「ヘンリーには町に残って準備を整えて欲しいの。マインラートさんに頼みましょう」
ヘンリーはちょっとだけムッとして口をへの字に曲げたが、これ以上は彼にかまっていられない。
私は「ごめんなさい! ちょっと急ぐの!」と周囲の人々に声をかけた後、駆け足で領主の館へ戻ったのだった。
……
秋はとても忙しい季節だ。
メインは作物の収穫。
それに並行して冬支度も進めなくてはならない。
ちなみにヘイスターは皇都と違って水道だけではなく暖房設備も整っていないの。
だから大量の藁《わら》を集めてそれを発酵させることで暖房にするらしい。
生活の知恵ってやつね。
穏やかな秋の陽ざしのもと、この日も私は収穫や藁集めのお手伝いをしていた。
「リアーヌ様。いつもありがとうございます!」
「そろそろおやつの時間にしましょ」
「お茶もいれたよぉ」
ほのぼのとした雰囲気が心地いい。
するとそこに私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい! 姉さぁん!!」
ヘンリーだ。いつになく真剣な顔をしてこちらに近づいてくる。
「きゃっ! ヘンリー様よ!」
「ヘンリーさまぁぁ!!」
若い女性たちが目の色を変えてヘンリーに手を振る。
しかしヘンリーは彼女らにかまうことなく、一直線に私のもとまで駆けてきた。
肩で息をしており、なかなか顔を上げられないでいる。
何事もほどほどに、というのが信条のヘンリー。
なおもぜえぜえと息を切らしている彼の様子に、私はただならぬ気配を感じた。
「何があったの!?」
「こ、これを……」
ヘンリーはうつむいたまま右手に握られた一通の書状を差し出してきた。
私はそれを受け取る。
そして差出人を見たとたんに目を大きく見開いてしまった。
「これは……」
差出人の名前は「デュドネ少将」とある。その名前に見覚えはない。
だから私を驚かせたのは名前ではなく、名前の横に押された紋章だ。
鷹が大きく羽を広げているのがモチーフとなっているもの。
つまりリーム王国を表す紋章だったのである。
「もしかして……」
嫌な予感が走る。
急いで封を開けた。
そして中身を見た瞬間、ぐわりと目の前が歪んでしまったのだった。
『ヘイスターは当王国の領土であり、それをヴァイス帝国が不当に占拠している。ついては領主および兵の即刻退去を求める。もし要求がのまれなければ、武力をもってこれを制す。20日の猶予を与えるので、よく検討いただきたい。よい返事を待っている』
これは……。
リーム王国からの宣戦布告だ――。
くらりと立ちくらみがした。
「姉さん! 大丈夫か!?」
息を整えたヘンリーが私の肩を抱く。
少しだけ周囲の女性たちの目が冷たいのは気のせいかしら……。
私はヘンリーに微笑むと、彼の手から離れた。
「もう大丈夫よ。ありがとう」
「んで、どうするんだよ?」
「どうするって……。とりあえず王宮に報せなきゃ」
「じゃあ、俺が皇都に行ってくるよ!」
私はヘンリーの提案に対して首を横に振った。
彼はまだ17歳。使者としては若すぎる。
それとすぐにかっとなる性格も危うい。
私はそれらしい理由を並べて彼の申し出を断った。
「ヘンリーには町に残って準備を整えて欲しいの。マインラートさんに頼みましょう」
ヘンリーはちょっとだけムッとして口をへの字に曲げたが、これ以上は彼にかまっていられない。
私は「ごめんなさい! ちょっと急ぐの!」と周囲の人々に声をかけた後、駆け足で領主の館へ戻ったのだった。