それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
………
……
つながった唇をゆっくりと離す。
ジェイ様はなおも驚愕に固まっている。
そんな彼をしり目に机の方へと身をひるがえすと、そこに置かれていた短剣を手にした。
「なにをする気だ!?」
ジェイ様の乾いた声がこだます。
私は左手で自分の髪をつかみ、そこに短剣を当てた。
「やめろ!!」
彼の悲痛な叫び声が響く。
でも私は見せなければならない。
私自身の覚悟を。
ジェイ様を再び星にするために――。
――ブツッ!
短剣を横一閃に走らせた瞬間に、後頭部から鈍い音が聞こえてきた。
とたんにちぎれた髪をつかんだ左手が重力にしたがって落ちていく。
その左手にぐっと力をこめ、金色の髪を彼の前につきつけた。
「私の全てをあなたに捧げます! 私はこの身がどうなろうともいとわない! だからせめて民だけは救ってください!」
再び固まるジェイ様。
私は息を大きく吸い込んでから下腹部に思いっきり力を込めた。
押しとどめられた空気が喉の手前で止まる。
(届けるんだ! 私の覚悟を!!)
そうして私は声を爆発させたのだった。
「民の希望の星となってください! ジェイ・ターナー様!」
渾身の声が余韻となって部屋の中にただよう。
ジェイ様は口を半開きにしたまま固まり、背後のマインラートさんも何も言おうとはしなかった。
いつの間にか雲が晴れたのだろう。
ほのかな月明かりがジェイ様に降り注ぎ、彼の細身の体を浮き上がらせている。
その神秘的な姿を私は呼吸を整えながら見入っていた。
しばらく静寂が場を支配した。
荒れた呼吸が徐々に収まっていく。
そして完全に呼吸が元通りになった頃には、部屋はお腹が痛くなるような緊張感に包まれていた。
(ジェイ様……)
祈るような気持ちを込めて彼を見つ続けた。
……と、その時、ついに静寂は破られた。
「ふふっ……」
ジェイ様の笑い声によって――。