それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
………
……
ヘンリーが制止をきかずに監獄塔から飛び出した。
2階から飛び降りた時に少しだけ足をくじいていた彼は、敵兵に囲まれた時にバランスを崩して倒れてしまった。
そこに一人の敵兵が覆いかぶさる……。
そして敵兵とヘンリーの会話がはっきりと聞こえてきた。
「貴族の小僧か!! せめててめえの首を国へ持って帰ってやる!!」
「てめえ! 俺はブルジェ家の子息だぞ! 偉いんだぞ!」
「うわあああっ!」
そこで私は叫んだ。
「やめてぇぇぇぇ!!」
その後のことは、実はあんまり覚えていない……。
覚えているのは、耳から入ってきた音だけだ。
「ぐおおおおおおっ!」
ジェイの叫び声。
――ズンッ!
敵兵がヘンリーに向かって振り下ろした剣が、彼をかばったジェイの背中に突き刺さった音。
――ドンッ!
背中に大けがを負ったジェイが、渾身の力で敵兵を突き飛ばした音。
そして壮絶な斬り合いの末に敵兵を倒したジェイがヘンリーに告げた言葉。
「俺のそばから離れるな。いいね」
優しいジェイの微笑みを見たとたんに泣きじゃくったヘンリーの声……。
はっきりと覚えているのはそこまでだった。
あとはうっすらとしか記憶にない。
敵兵が一人残らず町からいなくなった後、マインラートさんが大声をあげた。
「勝どきをあげよ!!」
――おおおっ!!
町中が歓喜に包まれ、町のあらゆるところで身をひそめていた人々がいっせいに戦場となった領主の館の周辺に集まってきた。
でもそこには主役になるべき人物……ジェイの姿はない。
私は人々をかき分けながら叫んだ。
「ジェイ! ヘンリー!!」
そうして人混みから外れたひっそりとしたところで二人を見つけると愕然としてしまったのだった。
「ジェイ……」
真っ赤に染めた白い布地を包帯がわりに巻いたジェイが横たわっていたのだ……。
一方のヘンリーも木で右足首を固定している。
そばには料理人のコンランドさんと、町で唯一の医者であるイザベットおばあちゃんがいた。
「姉さん……。ごめん……。俺……俺……」
ヘンリーがかすれた声で何を言おうと必死になっている。
私はこわばった顔のまま彼の前までやってくると。
――ガシッ!
ヘンリーを強く抱きしめた。
「うわあああああ!!」
まるで赤子のように大きな声で泣くヘンリー。
私はあやすような口調でささやいた。
「もう大丈夫。大丈夫だから」
そしてヘンリーの背中をさすりながらイザベットさんに視線を向けた。
彼女はきゅっと口元を引き締めると、うなずきもしなければ首を横に振ることもなかった。
「やるだけのことはやりました。後はジェイ様次第のようです」
イザベットさんに代わって、コンラッドさんが低い声で言った。
ぐわっと熱いものがこみ上げてきて涙腺を刺激する。
しかし私はここで涙を流すわけにはいかない。
一度、二度と深呼吸をすると、震える声でコンラッドさんに告げた。
「コンラッドさんとヘンリーの二人はジェイをイザベットさんの家に移してください」
「はい。分かりました」
「ヘンリーもいいわね?」
「……おう」
私は小さくうなずくとイザベットさんに言った。
「イザベットさん。ジェイのためにベッドを貸してください」
「当たり前じゃ。町を救った英雄だもの」
イザベットさんがにやっと口角を上げる。
私もつられて小さく微笑んだ。
(よし、笑える。だからまだ私は大丈夫)
そう自分に言い聞かせると、三人に向けて締めくくったのだった。
「私は館の後片付けや皇都への報告など、領主としての仕事を一通りこなしてから向かいます。それまではジェイのことをよろしくお願いします」
と――。
……
ヘンリーが制止をきかずに監獄塔から飛び出した。
2階から飛び降りた時に少しだけ足をくじいていた彼は、敵兵に囲まれた時にバランスを崩して倒れてしまった。
そこに一人の敵兵が覆いかぶさる……。
そして敵兵とヘンリーの会話がはっきりと聞こえてきた。
「貴族の小僧か!! せめててめえの首を国へ持って帰ってやる!!」
「てめえ! 俺はブルジェ家の子息だぞ! 偉いんだぞ!」
「うわあああっ!」
そこで私は叫んだ。
「やめてぇぇぇぇ!!」
その後のことは、実はあんまり覚えていない……。
覚えているのは、耳から入ってきた音だけだ。
「ぐおおおおおおっ!」
ジェイの叫び声。
――ズンッ!
敵兵がヘンリーに向かって振り下ろした剣が、彼をかばったジェイの背中に突き刺さった音。
――ドンッ!
背中に大けがを負ったジェイが、渾身の力で敵兵を突き飛ばした音。
そして壮絶な斬り合いの末に敵兵を倒したジェイがヘンリーに告げた言葉。
「俺のそばから離れるな。いいね」
優しいジェイの微笑みを見たとたんに泣きじゃくったヘンリーの声……。
はっきりと覚えているのはそこまでだった。
あとはうっすらとしか記憶にない。
敵兵が一人残らず町からいなくなった後、マインラートさんが大声をあげた。
「勝どきをあげよ!!」
――おおおっ!!
町中が歓喜に包まれ、町のあらゆるところで身をひそめていた人々がいっせいに戦場となった領主の館の周辺に集まってきた。
でもそこには主役になるべき人物……ジェイの姿はない。
私は人々をかき分けながら叫んだ。
「ジェイ! ヘンリー!!」
そうして人混みから外れたひっそりとしたところで二人を見つけると愕然としてしまったのだった。
「ジェイ……」
真っ赤に染めた白い布地を包帯がわりに巻いたジェイが横たわっていたのだ……。
一方のヘンリーも木で右足首を固定している。
そばには料理人のコンランドさんと、町で唯一の医者であるイザベットおばあちゃんがいた。
「姉さん……。ごめん……。俺……俺……」
ヘンリーがかすれた声で何を言おうと必死になっている。
私はこわばった顔のまま彼の前までやってくると。
――ガシッ!
ヘンリーを強く抱きしめた。
「うわあああああ!!」
まるで赤子のように大きな声で泣くヘンリー。
私はあやすような口調でささやいた。
「もう大丈夫。大丈夫だから」
そしてヘンリーの背中をさすりながらイザベットさんに視線を向けた。
彼女はきゅっと口元を引き締めると、うなずきもしなければ首を横に振ることもなかった。
「やるだけのことはやりました。後はジェイ様次第のようです」
イザベットさんに代わって、コンラッドさんが低い声で言った。
ぐわっと熱いものがこみ上げてきて涙腺を刺激する。
しかし私はここで涙を流すわけにはいかない。
一度、二度と深呼吸をすると、震える声でコンラッドさんに告げた。
「コンラッドさんとヘンリーの二人はジェイをイザベットさんの家に移してください」
「はい。分かりました」
「ヘンリーもいいわね?」
「……おう」
私は小さくうなずくとイザベットさんに言った。
「イザベットさん。ジェイのためにベッドを貸してください」
「当たり前じゃ。町を救った英雄だもの」
イザベットさんがにやっと口角を上げる。
私もつられて小さく微笑んだ。
(よし、笑える。だからまだ私は大丈夫)
そう自分に言い聞かせると、三人に向けて締めくくったのだった。
「私は館の後片付けや皇都への報告など、領主としての仕事を一通りこなしてから向かいます。それまではジェイのことをよろしくお願いします」
と――。