それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
第三章 動き出した陰謀
二人きりの旅
◇◇
ジェイが目を覚ましてから数日が経った。
「師匠! 今日も剣の稽古をつけてくれよ!」
ヘンリーはいつの間にかジェイのことを『師匠』と呼ぶようになって、本当の兄のように慕っている。
「ああ、いいだろう、今度は手加減なしでいくぞ」
「手加減だぁ!? へんっ! バカにするな!」
ジェイはヘンリーのわがままにも文句ひとつ言わずに付き合ってくれているのだから、悪い思いはしていないと信じたい。
「じゃあそろそろ町の様子を見に行こうか。ヘンリー殿」
「おう! 師匠!」
町の復興はジェイを中心として驚くべきスピードで進んでいった。
焼け落ちた領主の館も、今ではすっかり元通りになっている。
また足りなくなった藁もかき集めることができたので、冬の寒さはしのげそうだ。
そうして年末を迎えたある日。
「姉さん! 姉さんあてに帝都から書状が届いたぜ! 今さらなんだってんだ!?」
私、ジェイ、ヘンリー、マインラートさんの四人は作戦室に集まって、その書状を開くことにした。
「私に勲章を授与するために、私とジェイの二人を王宮に招きたいそうよ!」
勲章をもらえるなんて、当たり前だけど生まれて初めてだ。
嬉しくて体温がグンと上がる。
私の興奮が伝わったのか、ヘンリーも頬を赤く染めた。
「おおっ! 姉さん! やったな!」
「さすがはリアーヌ様でございます」
私、ヘンリー、マインラートさんの三人が嬉々とする一方で、ジェイだけは静かにたたずんでいる。
それを不思議に思ったヘンリーが眉をしかめた。
「やいっ! 師匠はあんまり嬉しそうじゃないようだな!? そんなに姉さんが勲章をもらうのが気に食わないっていうのか?」
「いや、それはめでたいさ」
「それは? ということは、他に何か思い当たる節があるの?」
私が横から口を挟んだ。
ジェイは心なしか悲しい色を顔に浮かべた。
「俺……。ジェイ・ターナーがここにいるということが王宮に知られてること。そして俺が呼び出されたこと……」
「えっ……。まさか……!」
とある考えが脳裏をよぎったとたんに、顔から血の気が引いていく。
苦笑いしたジェイの様子からして、私の考えは間違いなさそうだ。
するとヘンリーが軽い調子で言った。
「へんっ! なんだってんだ! まさか師匠を暗殺するために呼びつけた訳でもないだろうに」
ジェイの目が大きく見開かれる。彼だけではない。私とマインラートさんの目もまた丸くなった。
「おいおい……。ジョークだぜ? ジョークに決まってるだろ。なんでそんな顔するんだよ」
鈍いヘンリーでもようやく気づいたようだ。
ジェイが王宮に呼ばれた理由。
それは彼に何らかの『用事』があるため……。
その『用事』は決して良いものではないということ……。
まるで冷水を浴びせられたように場が静まってしまった。
私の気分もずんと重くなる……。
……と、次の瞬間だった。
思いがけないことをジェイが言ったのである。
「まあ、深く考えても仕方ない。よし、では早速帝都に行こう! 俺とリアーヌの二人で」
「へっ!? ふ、二人で!?」
てっきりヘンリーやマインラートさんも一緒だと思っていた。
しかしジェイは柔らかな笑みを浮かべて言った。
「王宮に呼ばれたのは俺たち二人だ。それとも俺一人がお供では心細いかい?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
顔がリンゴのように真っ赤になっているのが自分でも分かる。
でも仕方ないじゃない!
だって二人きりなのよ!
帝都までの道のりを二人きりで過ごすのよ!!
「じゃあ、決まりだ。明日、ここを発とう」
こうして私とジェイの二人旅は、あっさりと決まった。
私はドキドキしっぱなしの胸の鼓動を抑えながら笑顔になった。
そして思い切って、一度は口にしてみたかったセリフを言ってみたのである。
「帝都までの道のり。私をしっかりと守ってくださいね! 騎士様」
「騎士!? いつ俺が騎士になったんだ? ……しかし主人を守ることを誓うという意味では騎士みたいなものか……」
ジェイが驚いている。
でも否定はしてこない!
(やった!)
沸き上がってきた喜びで、体がふわりと浮かぶよう。
「ふふ、帝都なんて久しぶりだから楽しみ!」
私はスカートをひらりと揺らしながら作戦室を出ていった。
(お祝いにマーガレットに美味しい紅茶をいれてもらおう!)
風が冷たい季節とは思えないくらいに、私の心も体もポカポカで、とても幸せなのだった。
ジェイが目を覚ましてから数日が経った。
「師匠! 今日も剣の稽古をつけてくれよ!」
ヘンリーはいつの間にかジェイのことを『師匠』と呼ぶようになって、本当の兄のように慕っている。
「ああ、いいだろう、今度は手加減なしでいくぞ」
「手加減だぁ!? へんっ! バカにするな!」
ジェイはヘンリーのわがままにも文句ひとつ言わずに付き合ってくれているのだから、悪い思いはしていないと信じたい。
「じゃあそろそろ町の様子を見に行こうか。ヘンリー殿」
「おう! 師匠!」
町の復興はジェイを中心として驚くべきスピードで進んでいった。
焼け落ちた領主の館も、今ではすっかり元通りになっている。
また足りなくなった藁もかき集めることができたので、冬の寒さはしのげそうだ。
そうして年末を迎えたある日。
「姉さん! 姉さんあてに帝都から書状が届いたぜ! 今さらなんだってんだ!?」
私、ジェイ、ヘンリー、マインラートさんの四人は作戦室に集まって、その書状を開くことにした。
「私に勲章を授与するために、私とジェイの二人を王宮に招きたいそうよ!」
勲章をもらえるなんて、当たり前だけど生まれて初めてだ。
嬉しくて体温がグンと上がる。
私の興奮が伝わったのか、ヘンリーも頬を赤く染めた。
「おおっ! 姉さん! やったな!」
「さすがはリアーヌ様でございます」
私、ヘンリー、マインラートさんの三人が嬉々とする一方で、ジェイだけは静かにたたずんでいる。
それを不思議に思ったヘンリーが眉をしかめた。
「やいっ! 師匠はあんまり嬉しそうじゃないようだな!? そんなに姉さんが勲章をもらうのが気に食わないっていうのか?」
「いや、それはめでたいさ」
「それは? ということは、他に何か思い当たる節があるの?」
私が横から口を挟んだ。
ジェイは心なしか悲しい色を顔に浮かべた。
「俺……。ジェイ・ターナーがここにいるということが王宮に知られてること。そして俺が呼び出されたこと……」
「えっ……。まさか……!」
とある考えが脳裏をよぎったとたんに、顔から血の気が引いていく。
苦笑いしたジェイの様子からして、私の考えは間違いなさそうだ。
するとヘンリーが軽い調子で言った。
「へんっ! なんだってんだ! まさか師匠を暗殺するために呼びつけた訳でもないだろうに」
ジェイの目が大きく見開かれる。彼だけではない。私とマインラートさんの目もまた丸くなった。
「おいおい……。ジョークだぜ? ジョークに決まってるだろ。なんでそんな顔するんだよ」
鈍いヘンリーでもようやく気づいたようだ。
ジェイが王宮に呼ばれた理由。
それは彼に何らかの『用事』があるため……。
その『用事』は決して良いものではないということ……。
まるで冷水を浴びせられたように場が静まってしまった。
私の気分もずんと重くなる……。
……と、次の瞬間だった。
思いがけないことをジェイが言ったのである。
「まあ、深く考えても仕方ない。よし、では早速帝都に行こう! 俺とリアーヌの二人で」
「へっ!? ふ、二人で!?」
てっきりヘンリーやマインラートさんも一緒だと思っていた。
しかしジェイは柔らかな笑みを浮かべて言った。
「王宮に呼ばれたのは俺たち二人だ。それとも俺一人がお供では心細いかい?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
顔がリンゴのように真っ赤になっているのが自分でも分かる。
でも仕方ないじゃない!
だって二人きりなのよ!
帝都までの道のりを二人きりで過ごすのよ!!
「じゃあ、決まりだ。明日、ここを発とう」
こうして私とジェイの二人旅は、あっさりと決まった。
私はドキドキしっぱなしの胸の鼓動を抑えながら笑顔になった。
そして思い切って、一度は口にしてみたかったセリフを言ってみたのである。
「帝都までの道のり。私をしっかりと守ってくださいね! 騎士様」
「騎士!? いつ俺が騎士になったんだ? ……しかし主人を守ることを誓うという意味では騎士みたいなものか……」
ジェイが驚いている。
でも否定はしてこない!
(やった!)
沸き上がってきた喜びで、体がふわりと浮かぶよう。
「ふふ、帝都なんて久しぶりだから楽しみ!」
私はスカートをひらりと揺らしながら作戦室を出ていった。
(お祝いにマーガレットに美味しい紅茶をいれてもらおう!)
風が冷たい季節とは思えないくらいに、私の心も体もポカポカで、とても幸せなのだった。