それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
~閑話~

 わたしはマーガレット。リアーヌ様の館でメイドとして働いている。
 リアーヌ様はちょっぴり意地っ張りなところはあるけど、とっても優しくて、お綺麗な方。
 弟のヘンリー様のことや、ヘイスターの領民たち、それに私のようなメイドのことも大切にしてくださる。
 わたしの憧れだ。
 そんなリアーヌ様のおそばで働くことができて幸せなの。
 そしてリアーヌ様は明日、ヘイスターを出て帝都に向かわれる。
 しかもお供はあのジェイ・ターナー様!
 少しだけ年の差はあるけど、とてもお似合いなお二人。
 リアーヌ様は口では「ジェイと私は、軍人と領主という関係」なんて強がっているけど、絶対に恋しているに違いないわ。
 だって「王宮に呼ばれたのは私とジェイの二人だけ。だから二人きりで行くのも仕方ないわよね! むふふ!」ってすごく嬉しそうにしてらしたもの。
 わたしは『恋の予感』には敏感なのだ。
 
「はぁ……。いいなぁ。わたしも恋がしたい」

「やいっ! なにをため息なんてついてるんだよ!」

「あ、ヘンリー様!」

「姉さんの出発は明日なんだぞ。支度は整ったのか?」

「え、いえ。まだ……」

「……ったく、仕方ねえなぁ。この服をここにつめればいいのか?」

「へ? 手伝ってくださるのですか?」

「勘違いするなよ。姉さんが困るのが嫌なだけだ」

 口は悪いけど姉思いで正義感の強いのヘンリー様。
 町の若い女の子たちに大人気なのは、整った顔立ちだけではなくて性格も大いに関係しているに違いないわ。
 
「やいっ! 何をぼさっとしてるんだよ。手を動かせよな! んで、この髪留めはどこにいれておけばいいんだ?」

「あ、はい! それはこちらのポケットに……」

 その後もせっせと二人で荷物の準備を進めていく。
 ヘイスターから帝都までは馬車なら2日。王宮で3日ほど過ごして、再び馬車で帰ってこられるとのこと。
 合わせると7日間のご旅程だ。
 その間の衣類などで大きなカバンはパンパン。足りない分は手提げのバッグにつめこむ。
 
「こんなに荷物が多いんじゃ、お供がジェイだけだと足りないだろ」

 ヘンリー様が顔を曇らせる。
 ははーん、分かった!
 ヘンリー様は何か理由をつけてリアーヌ様とジェイ様についていきたんだわ!
 でもそれは許しません。
 だってリアーヌ様はジェイ様との二人っきりの旅をすごく楽しみになさっているのですから!
 
「ヘンリー様! いくらリアーヌ様のことが心配だからといって、帝都までついていく、なんて言ってはなりませんよ!」

「はぁ?」

「そりゃあ、分かりますよ。わたしにも弟がおりますからね。可愛い弟が他の女の子と旅に出るなんて聞いたら、不安で不安でしかたなくなっちゃいますわ。わたしだったら変装してでも、後をつけてしまうかもしれない。……でも、ここは家族だからこそ、温かく見守ってあげるのが『愛』だと思うのです。ふふふ。それに素敵ではありませんか。もしリアーヌ様の恋がうまくいったら、かの『彗星の無双軍師』がヘンリー様のお兄様になるかもしれないのですよ! ヘンリー様! 愛ですよ! 愛をもってリアーヌ様を見守りましょう!」

 よく、言い切ったわ! わたし!
 これならヘンリー様も思いとどまってくれるに違いないわ。
 ふふふ。わたしから顔をそらしちゃって。きっと本音を言い当てられて恥ずかしいのね。
 あ、いよいよ何か言おうとしてらっしゃる。
 さあ、本心をぶつけてきてください!
 マーガレットが受け止めてあげますから!
 
「……だったらマーガレットも姉さんと一緒に行かないってことだよな?」

「ほえ? え、はい。わたしはお留守番を言いつけられております」

「そっか。それはよかった」

「へ? なんで?」

「だって……。ほら、あれだよ……。おまえがいないと寂しいっていうか……」

「へっ? えっ? おっしゃっている意味が……」

「だから、姉さんが遠くに行っても、俺のそばから離れるなってことだよ!」
 
 顔を真っ赤にしたヘンリー様はそう言い残してお部屋を出ていってしまった……。
 
「ど、どういうこと……?」

 あまりに予想外の不意打ちに、頭がぐるぐるしている。
 しばらくポカンと口を開けていると、ひとつの答えがポンと浮かんできた。
 
「そうか! ヘンリー様は自分のことは何もできないから、メイドがいないと困っちゃうってことね! ふふふ。仕方ないんだから!」

 うん、きっとそうに違いない。
 よーし、これからもリアーヌ様とヘンリー様のために頑張るぞ!
 わたしはそう心に誓ったのだった。

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