それなら私が女王になります! ~辺境に飛ばされた貴族令嬢は3回のキスで奇跡を起こす~
どうりで彼の顔立ちが亡きクローディア様と瓜二つなわけだ。滅多に人前に出てくることがないため、そのお顔を間近で拝見したのは初めてだ。それでも今の今まで気づかなかったのは恥ずかしい。
「だから頭が高いと言ってるだろうに……」
パパが苦々しい顔つきで苦言を漏らした。
しかしジュスティーノ殿下は微笑んだまま、私に話しかけてきたのである。
「別にいいんです。無礼だとも思っておりません。ところで一つおたずねしたいのですが、もしかしてあなたがリアーヌ・ブルジェ殿ですか?」
声変わり前の透き通った声だ。
思わず聞き入ってしまいそうになるのをぐっとこらえた。
「はい。リアーヌ・ブルジェと申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。ジュスティーノ・ヴァイス殿下」
急に真面目に受け答えしたのが面白かったのか、ジュスティーノ殿下は口を押えて笑い始めた。
「ははは。礼儀正しいのはお父上の厳しいしつけのおかげでしょうか?」
「まあ! その言いようから察するに、お父様は殿下にまで厳しいのですか?」
「ははは! 実はここだけの話、鬼のように厳しいんです」
「で、殿下! そのようなことを娘に吹き込まれては困ります!」
パパが顔を真っ赤にしているのを、ジュスティーノ殿下はいたずらっぽく笑っている。
その姿はどこにでもいる少年そのもの。
弟のヘンリーと年も同じだって聞いたことあるし、妙な親しみをおぼえる。
すっかり肩の力が抜けた私は、ジュスティーノ殿下に疑問に思ったことをぶつけてみた。
「ところで殿下はどうして私のことをご存知だったのですか?」
ジュスティーノ殿下が私の質問に驚いたような表情を浮かべる。
その直後、屈託のない笑顔で答えてくれた。
「よく姉さんから聞いていたのです。貴女のことを」
「えっ!? クローディア様から私のことを?」
てっきりパパが殿下に余計なことを吹き込んでいるものだとばかり思っていたのだけど、そうではなかったみたい。
確か以前にジェイ様もクローディア様から私のことを聞かされていたとおっしゃっていたのを思い出される。
いったいクローディア様は私のことをどんな風に弟にお話しされていたのだろう。
それを口にする前に、ジュスティーノ殿下は穏やかな表情で話し始めたのだった。
「姉さんは貴女のことを大変気に入っておりました。家族で食事を共にする時は、いつも貴女のことを話されていたのですよ」
そう切り出したジュスティーノ殿下の口から、懐かしいクローディア様との思い出が次々と語られていった。
初めてのお菓子作りに失敗して笑いあったこと。
同じ恋愛小説を読んで、その感想を言い合ったこと。
いつか鳥のように大空を飛んでみたいと夢を語り合ったこと。
時と共に忘れかけていた思い出たちが、キラキラと輝きながら胸の中で踊っている。
上がった体温とともにクローディア様の笑顔が脳裏に浮かぶ。
自然と涙が頬を伝った。
ジュスティーノ殿下は私に真っ白なハンカチを手渡す。そして包み込むような優しい口調で続けた。
「きっと姉さんは幸せだったと思います。貴女のような素敵な親友がいたのですから」
「私が……親友……。めっそうもございません。私はただの奉公人です」
私の言葉にジュスティーノ殿下が少しだけ悲しげな色を顔に浮かべる。
そして私へ言い聞かせるように、ゆっくりとした口調で言った。
「いえ、親友でいてください。単なる主人と奉公人という関係だったと貴女が思っているならば、姉さんは天国で悲しむでしょうから」
とても優しい言葉とお顔のジュスティーノ殿下。
まるでクローディア様が乗り移ったみたいだ。
私は泣きじゃくりながら、小さくうなずいた。
「よかった。これで僕も安心しました」
ほっと胸をなでおろしているジュスティーノ殿下に、私は小首をかしげた。
すると彼は少し恥ずかしそうに顔をそむけながら続けたのだった。
「実を言うと、僕は明日、戦場におもむくことになっているのです」
「だから頭が高いと言ってるだろうに……」
パパが苦々しい顔つきで苦言を漏らした。
しかしジュスティーノ殿下は微笑んだまま、私に話しかけてきたのである。
「別にいいんです。無礼だとも思っておりません。ところで一つおたずねしたいのですが、もしかしてあなたがリアーヌ・ブルジェ殿ですか?」
声変わり前の透き通った声だ。
思わず聞き入ってしまいそうになるのをぐっとこらえた。
「はい。リアーヌ・ブルジェと申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。ジュスティーノ・ヴァイス殿下」
急に真面目に受け答えしたのが面白かったのか、ジュスティーノ殿下は口を押えて笑い始めた。
「ははは。礼儀正しいのはお父上の厳しいしつけのおかげでしょうか?」
「まあ! その言いようから察するに、お父様は殿下にまで厳しいのですか?」
「ははは! 実はここだけの話、鬼のように厳しいんです」
「で、殿下! そのようなことを娘に吹き込まれては困ります!」
パパが顔を真っ赤にしているのを、ジュスティーノ殿下はいたずらっぽく笑っている。
その姿はどこにでもいる少年そのもの。
弟のヘンリーと年も同じだって聞いたことあるし、妙な親しみをおぼえる。
すっかり肩の力が抜けた私は、ジュスティーノ殿下に疑問に思ったことをぶつけてみた。
「ところで殿下はどうして私のことをご存知だったのですか?」
ジュスティーノ殿下が私の質問に驚いたような表情を浮かべる。
その直後、屈託のない笑顔で答えてくれた。
「よく姉さんから聞いていたのです。貴女のことを」
「えっ!? クローディア様から私のことを?」
てっきりパパが殿下に余計なことを吹き込んでいるものだとばかり思っていたのだけど、そうではなかったみたい。
確か以前にジェイ様もクローディア様から私のことを聞かされていたとおっしゃっていたのを思い出される。
いったいクローディア様は私のことをどんな風に弟にお話しされていたのだろう。
それを口にする前に、ジュスティーノ殿下は穏やかな表情で話し始めたのだった。
「姉さんは貴女のことを大変気に入っておりました。家族で食事を共にする時は、いつも貴女のことを話されていたのですよ」
そう切り出したジュスティーノ殿下の口から、懐かしいクローディア様との思い出が次々と語られていった。
初めてのお菓子作りに失敗して笑いあったこと。
同じ恋愛小説を読んで、その感想を言い合ったこと。
いつか鳥のように大空を飛んでみたいと夢を語り合ったこと。
時と共に忘れかけていた思い出たちが、キラキラと輝きながら胸の中で踊っている。
上がった体温とともにクローディア様の笑顔が脳裏に浮かぶ。
自然と涙が頬を伝った。
ジュスティーノ殿下は私に真っ白なハンカチを手渡す。そして包み込むような優しい口調で続けた。
「きっと姉さんは幸せだったと思います。貴女のような素敵な親友がいたのですから」
「私が……親友……。めっそうもございません。私はただの奉公人です」
私の言葉にジュスティーノ殿下が少しだけ悲しげな色を顔に浮かべる。
そして私へ言い聞かせるように、ゆっくりとした口調で言った。
「いえ、親友でいてください。単なる主人と奉公人という関係だったと貴女が思っているならば、姉さんは天国で悲しむでしょうから」
とても優しい言葉とお顔のジュスティーノ殿下。
まるでクローディア様が乗り移ったみたいだ。
私は泣きじゃくりながら、小さくうなずいた。
「よかった。これで僕も安心しました」
ほっと胸をなでおろしているジュスティーノ殿下に、私は小首をかしげた。
すると彼は少し恥ずかしそうに顔をそむけながら続けたのだった。
「実を言うと、僕は明日、戦場におもむくことになっているのです」