アイスクリームと雪景色
気取らないレインブーツに、気取らない後輩。

オレンジの夕陽に照らされた休憩室で、美帆は久しぶりに肩の力を抜いて寛ぐ。頑なに拘っていた何かが、雪とともに融けていくイメージだった。

満足の笑みを浮かべると、コーヒーをゆっくりと味わう。

オフィスにもコーヒーサーバーが設置されているが、ここは仕事空間から離れているので、休むことに集中できて良い。

(昨夜のこともそう、すべて融けていったのだわ)

最も気がかりだった昨夜の話について、里村は何も言い出さない。

ちゃんと美帆のことを『成田先輩』と呼ぶし、温泉のおの字も口にしない。仕事にも普通に取り組み、新人らしく頑張っている。

あれはきっと、一夜限りの雪が見せた幻だったのだ。

(若くてイケメンのモテ男子が、どうして私みたいなタイプの30オンナを好きになる? ましてや、抱かせてほしいだの、温泉に行きませんかだの、本気で誘うわけがない。だから、一夜明けた今、思い込みすぎて馬鹿なことをしたと、後悔してるんじゃないかしら)
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