アイスクリームと雪景色
上司の信じられない言葉に、素っ頓狂な声になる。

箱崎はやはり複雑そうな表情ではあるが深く顎を引く。そして、美帆が握り締めているリーフレットを抜き取り、広げてみせた。山並みを背景にした温泉街。角ばったデザインの観光ホテルがネオンに浮かび上がっている。昭和の遺物的な光景の下には――

【上谷村温泉 湯元ホテル菱田(ひしだ)】

「冗談じゃありません。できません!」

里村に対しての怒りを、そのまま箱崎にぶつけた。

よもやこんなふうに、コネを利用して温泉行きを強行しようとは予想もしなかった。会社という組織に生きる人間なら絶対に断れない、そんな方法を使うなんて。

「そっちも見せてみろ」

箱崎は美帆の抗議を受けず、代表取締役会長のサインが入った“辞令書”を取り上げると、しげしげと見つめた。

「本当に会長のサインだ」

感心したように呟き、リーフレットと並べ置いた。

なぜこんなにも落ち着いているのだろう。こんなやり方、いつもの箱崎なら許さないはずだ。美帆は失望の目で上司を睨んだ。

「金本さんによると、これは里村の提案らしい」

「そうに決まってます!」
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