アイスクリームと雪景色
“提案”ではなく、“仕業”だと言いたかった。

「無茶なやり方だが、あいつなりに考えがあってのことだ」

「……え?」

箱崎はリーフレットを裏返すと、ホテルの所在地が記載されている箇所を指差した。場所は岐阜の飛騨地方。山に囲まれた小さな町だ。

「ここは、一見どうということのない寂れた温泉街だが、外山会長にとっては特別な場所なんだ」

「会長の、特別な?」

美帆はリーフレットを見直した。どういうことだろう。

「たったいま金本さんから聞いた話で、俺も初めて知ったんだが……」

箱崎はやりかけていた仕事の手を止めている。これが最優先事項だと言わんばかりの集中した態度であり真剣な口調だ。

美帆は黙り、とりあえず耳を傾けることにした。

「今から26年前、外山(とやま)会長が社長に就任したばかりの頃、北里の業績は下り坂だった。なんらかのテコ入れが必要だが、いくら会議を重ねても打開案が浮かばない。行き詰まりを感じるなか、会長は会議室を離れ旅に出ることにした。日常を離れてインスピレーションを得ようとしたんだな」

「もしかしてそれが、この上谷村温泉?」

美帆の問いかけに、箱崎は頷く。
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