アイスクリームと雪景色
「ちょうど今頃の時期で、雪がたくさん降っていた。まっ白な景色は故郷の北海道を想起させ、会長は懐かしさを感じながら、久しぶりにゆったりと温泉に浸かり、リフレッシュしたそうだ。そして、湯上りにアイスクリームを食べた」

「アイスクリーム……」

「そう。一種類だけ売店で販売されていた、シンプルなパッケージのね」

視線をリーフレットから上げると、上司の鋭い視線にぶつかった。

「それは、地元の高原牧場で生産する原料を使用した自家製アイスクリームであり、そのホテルでのみ売られているオリジナル製品だった。会長は、故郷で食べた手作りアイスクリームの味にそっくりであることに衝撃を覚え、そして原点回帰という案を閃かせる。我々の事業は“乳”を原料とする製品作りだ。菓子やジュースに頼っている場合ではない……と」

美帆は愕然とする。原点回帰というのは、里村が企画会議で訴えたことと同じだ。

――僕の覚えてる北里アイスは、もっと単純でしたよ!

そして、現在自分達はそのことについて迷っている状態である。目新しさを追うばかりでなく、昔ながらのシンプルな味を生かす方法はないのか。
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