アイスクリームと雪景色
「……このホテルに、まだそのアイスクリームが売られていますか」

気がつけば美帆は前のめりになり、箱崎の視線に応えていた。社員旅行とか、幹事とか、里村にはめられたとか、そんなことは頭から飛んでいた。

「ああ。同じ原料を使い、昔と変わらぬ製法で生産が続けられている」

(食べてみたい。どんな味わいなのか。今の北里アイスが失ってしまった美味しさが、そこにあるかもしれない)
 
「つまり社員旅行というのは表向きの名目で、開発部の人間に勉強させてこいと、会長が命じたわけだ」

箱崎の指先が“辞令書”をトントンと叩いた。

「里村が、上司の俺や南課長、事業部長もすっ飛ばし、大叔父である会長に“提案”して、そのように持っていった。とんでもない野郎だよ」

まったくだ。上司に相談もせずに勝手な真似をして、本当にまったく、とんでもない部下である。

美帆はようやく、箱崎の複雑な表情のわけを理解した。

(それにしても……里村くん)

仕事に新たな道筋が拓けたことに興奮する。いつの間にか彼のペースに乗せられていたのだ。

しかし……
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