アイスクリームと雪景色
(あなたが考えたことは確かに面白い“提案”だわ。でも、それとこれとは別でしょ!)

里村はあの日、上谷村温泉のポスターを指差して『温泉旅行に行きましょう』と言った。会長のアイスクリームの話なんてひとつもしなかった。

つまり、あの時点での彼の目的は『旅行』であって、『仕事』ではない。アイスクリーム云々は、後付の理由に思える。

旅行と仕事をごっちゃにしてはいけない。

「里村はお前なら受けてくれると思って推薦したんだな。奴から聞いてたか?」

「……いいえ」

「だろうな。忙しい成田には面と向かって言いにくかったのかもしれん」

だから今、行方不明なのだ。こうして上司に説得させるほうが、思い通りに事が運ぶ。彼自身は出張らず身を隠せばいい。

そして、幹事に据えられたら美帆は欠席できない。逃げられないよう、そこまで網を張っているのだ。

「成田、行ってみようじゃないか、上谷村温泉に」

箱崎までもが、すっかり里村のペースに乗せられている。

恐るべき部下、あなどれないコネ男。

美帆はリーフレットと辞令書を回収するとバッグに押し込み、箱崎に一礼してからオフィスの出口へと向かう。
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