アイスクリームと雪景色
「おい、成田。どこに行くんだ」

振り返ると、曖昧に微笑んだ。箱崎は、里村が彼女を温泉に誘ったことを知らないのだ。

ただ単に仕事のためだけではない。彼の“提案”には別の意味が込められている。それを知っているのは当の本人と美帆だけ。

社内恋愛を嫌う箱崎に、余計な心配をされたくない。

(直接訊かなくちゃ。どういうつもりなのか)

「後でお返事します」

箱崎に言い置き廊下に出ると、パンプスのヒールを鳴らし駆けていった。

里村の居場所はもう分かっている。


よく考えてみれば、あの里村がトイレなんかに隠れるわけがない。というより、隠れるなんて可愛いことをする男ではない。

美帆はエレベーターの前まで来るとボタンを押そうとしたが、折悪く二基とも最上階から下りてくるところだった。1階まで見送り、上がってくるのを待たなければならない。

階段で行くことにした。5階から15階まで駆け上るのは楽ではないが、中ヒールのパンプスなら大丈夫。ブーツに比べたら裸足も同然だ。

大袈裟ではなく、美帆はそう思っている。
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