アイスクリームと雪景色
「きゃあっ」

6階に差し掛かった時、フロアから出てきた社員にぶつかった。向こうも前をよく見ていなかったのか、まともに体当たりされた恰好で美帆は吹っ飛ばされ、尻餅をついた。

「だ、大丈夫ですか」

聞き覚えのある低い声に、どきっとする。狼狽した様子で助け起こそうとするその人を見上げると、やはり坂崎だった。

「美帆……」

「ごめんなさいっ」

声が重なり、二人はそれぞれ口を押さえた。

「いや、俺も書類を見ながら歩いてて、前方不注意だ……すまなかった」

「そんな、こちらこそ」

ぶつかった拍子に散らばった坂崎の書類を手早く拾い集め、美帆は一人で立ち上がる。

書類は乳飲料の製品一覧で、どうやら彼は飲料事業部の企画課に向かうところらしい。一階下りるだけなので階段を使うのだ。

いきなりの出会いに焦りつつも、美帆は変なことに拘りを持った。

今、坂崎が『美帆』と呼んだこと。

(二人きりだから? でも、どうして)

さらに拘ろうとする思考をストップさせる。
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