アイスクリームと雪景色
「成田先輩」

「……」

黙っていると、里村はやけに神妙な顔つきになり、今度は一心に見つめてきた。

潤んだ瞳が揺れている。

それはまるで、飼い犬が主人の愛情を求めるかのような、ひたむきな視線であった。

「う……やめなさい、そんな目で」

「許してくれますか?」

可愛い仔犬ならともかく、自分より図体の大きな男にうるうるされたって、撫でてやる気にもならない。というか、話が本筋から逸れてしまう。

美帆は懇願を無視し、ここに来た目的を押し通した。

「許すわけないでしょう。こんなやり方、卑怯だと思わないの? それに、どういうつもりで会長の“昔話”を持ち出して、箱崎さんや開発部のみんなを巻き込むわけ?」

バッグから例の辞令書と、上谷村温泉のリーフレットを取り出して里村の前に広げる。厳しく追及する美帆に、彼はすっと目を細めた。

「だって成田先輩、言ったじゃないですか」

「え?」

「この前、俺が温泉に誘った時、はっきり言いましたよね。『二人で温泉なんて、絶対に行きませんっ』て」

「……」
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