アイスクリームと雪景色
美帆はしばし考える。

旅行会社の店舗前。里村から温泉にしつこく誘われ、危ういところで断ったのだ。

(そう、行かないって言った……でしょう?)

もう一度、自分の言葉を頭で繰り返す。二人で温泉なんて絶対に行きません――と、言ったような。

まさかと思いながら里村を見返す。

「二人きりでなきゃ、いいんですよね。俺、間違ってますか」

「そ、そんなの」

言葉尻を捉えた、こじつけだ。意味は間違ってはいないが、大人として、社会人として間違っている。

「あのね、里村くん」

「俺は真面目に受け止めて、会長に相談したんです。別に構いませんよね? 会長は大叔父で身内ですから。そしたら、社員旅行として行けばいいだろうって、アドバイスをくれたんです。開発部の、ことに第二グループの社員は少し働きすぎだから、いい機会だ。お堅い箱崎君も、アイスクリーム絡みなら動くだろう。あとは彼女を幹事に据えれば万全だ。一人では大変だろうから、お前がサポートすれば良いと」

美帆は、くらくらした。里村と話をするとたいていこうなる。頭がいろんなことを処理しきれなくなるのだ。あまりにも無軌道で、不規則すぎて。
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