アイスクリームと雪景色
「あと、会長の“昔話”ですが、上谷村温泉でのアイスクリームの話は本当です。箱崎さんや先輩達に味わってもらえたら仕事のためにもなるって、本気で考えて提案したんですよ。決して、自分の願望のためだけではありません」

美帆はよろけてデスクに寄りかかり、身体を支えた。

里村の願望というのは、つまり……

「行きましょう、成田先輩。二人で幹事になって、社員旅行ですッ!」

里村の策略に、会長がそこまで関わっていたとは。

しかも大甥の願望を知った上で関わり、こんな辞令書もどきにサインまでして。

(外山会長って、どんな人物だったかしら)

思い出そうとしても思い出せない。

たぶん、目の前にいる男にそっくりなのだろう。

「分かったわ」

「えっ?」

迫る里村を押し返すように睨むと、美帆はデスクから身体を離し、自力で立った。

確かに会長の“昔話”は開発部にとって魅力的である。

そして、自分達に息抜きが必要だということも承知している。
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