アイスクリームと雪景色
「いっそのこと、ゆっくり入院させてくれないかねえ」

「どうしてよ。早く退院したほうがお母さんも助かるじゃない」

車の運転免許を持たない母は、バスかタクシーで病院に来るしかない。今日のように荷物が多ければ大仕事だ。長男夫婦は遠方に暮らしているし、夫側の親戚には頼みにくいだろう。

心配して美帆は言うのだが、母は首を振った。

「違うよ。お父さんは今、アルバイトしてるでしょう。えらく真面目に働くから、体が参っちゃってるのよ。今回も、無理して寒い中をせっせと出かけるから」

「え……そうなの?」

「この機会に、ゆっくり休むべきだよ」

「へえ、お父さんがねえ」

美帆が感心すると、父は瞼を閉じて寝たふりを始める。

父は再雇用の期間が過ぎた後、しばらく年金生活を続けてきたが、最近になってアルバイトを始めたという。隣町に出来た大型スーパーで、カートを集めている。短時間だが結構体力を使うようだ。

「今頃になって無遅刻無欠勤で、真面目に働いてる。で、結局こんなことになるんだから」

母の苦言に、父は目を閉じたまま苦笑した。
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