アイスクリームと雪景色
美帆は不思議だった。苦労させられたことなど忘れたように、母は父を思いやっている。父は父で、ポンポン言われても嬉しそうに、全部受け止めている。

結婚して、長い年月をともに暮らし、ここまで辿り着いた。そんな、ある意味達観した空気を二人に感じた。

「それじゃ、お父さん。もう行くね」

美帆は帰り支度をして、父に挨拶した。病人が疲れるといけないので早めに帰ることにしたのだが、父は美帆を引き止めると、

「仕事のほうはどんな按配だ」

「うん、順調よ」

「面白いか」

「そうね、相変わらず楽しいわ」

恋愛や結婚はともかく、仕事だけは常に充実している。

美帆が生き生きと返事すると、父は満足そうに頷いた。

「あとはねえ……あ、今ね、新人を教育してるの。ちょっと変わった子だけど、一生懸命やってるわ」

里村のことを話すと、両親は面白そうに笑う。しばし彼の話で盛り上がってから、病室をあとにした。
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