アイスクリームと雪景色
考えてみれば、父はいつも穏やかだった。美帆も兄も、一度だって怒鳴られたり、手を上げられることはなかった。

ただ、仕事に対してやる気がなく、いい加減だった。それが子供心に情けなかったし、母も苦労させられたのだ。



帰り道、車を運転しながら、美帆は突然気が付いた。

――仕事のほうはどんな按配だ。

父が訊ねたのはどうしてだろう。

相変わらず楽しいと答えた美帆に、なぜ満足そうな顔をしたのか。

「お父さん、嫌いな仕事してたんだ」

美帆の言葉に、助手席の母が苦笑交じりで頷く。

転職もままならず、毎日毎日、嫌々ながらも仕事に通っていたのだ。家計のため、家族のために――

「中途半端なのよ。嫌なら嫌、怒るなら怒る。どうしたいのか意思表示してくれなきゃ、こっちだって対応のしようがない。夫婦なのに、遠慮しすぎなのよ」

母の悲しいような、悔やしいような、父への責め立て。

だけど美帆は理解する。今、なぜ父が無遅刻無欠勤でアルバイトを頑張っているのか。そんな母への詫びの気持ちではないだろうか。
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