アイスクリームと雪景色
「変質者だったらどうするのよ。一緒に写真まで撮って、信じられない」

「だってねえ、本当に礼儀正しい紳士だったもの。写真ではそんなふうに見えないけど」

ピースサインで勝手に写真撮影に乱入する紳士がいるだろうか。

「それに、お父さんが住所を訊いて、写真を何枚か送ったんじゃないかな。記念にどうぞって」

「わざわざ?」

両親の呑気さに呆れつつ、妙に感心する。

行きずりの旅行者に父がそこまでするとは、相当気が合ったのかもしれない。あるいは、それほどに魅力的な人物だったのか。

美帆はとりあえず、今の自分が無事であることに胸を撫で下ろした。

「それはそうと、この上谷村温泉なんだけど……」

美帆はアルバムを閉じて母に戻すと、来週の社員旅行について話した。母はさすがに驚いたが、ご縁があるのかもねえと、アルバムの表紙を撫で回している。

(確かに、ご縁があるのかも。でも、そもそもどうして里村くんは、上谷村温泉に行きたがるのかしら?)

今更ながらの疑問だった。
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