アイスクリームと雪景色
単なる後輩なら問題ないが、あの里村である。

美帆の故郷に連れて来て、ましてや家族に会わせるなど、とんでもない。そんなことをしたら、あの男が勘違いしてしまう。

「ごめん」

「まあ、無理にとは言わないけど」

美帆はとりあえず、熱い缶をコートのポケットに入れた。缶入りしるこドリンクは、成田家全員の好物である。

見送りの際に、母がいつも買ってくれる。これを飲むと元気になるのだ。

「席に座ったらまず飲みなよ。冷めちゃうから」

「う、うん」

話が逸れてほっとした。

だが、母は電車がやってくる方向へ首をのばすと、いきなり別の話題を持ち出した。急にそわそわとし始め、せっかちな口調だった。

「それはそうと、きちんと訊いておきたいんだけど」

「えっ?」

「ずっと付き合ってた、坂崎さんって人とは……」

母に会ったら伝えなければと思いつつ、言い出せずにいることだった。今日一日中、きっかけを探していたのだが上手くつかめず、このまま持ち帰ろうとしていた。

母もそうなのだろう。こんな、帰る間際に訊ねてくるのだから。
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