アイスクリームと雪景色
坂崎の存在を知っているのは母だけだ。親戚にはもちろん内緒である。ついぽろっと喋られてしまうのを恐れて父にも知らせていない。

ホームに、ゆっくりと電車が入ってくる。

雪は夕方に止んだが、日が暮れてからの冷え込みは厳しく、手がかじかみそうに寒い。美帆はポケットの缶を、ぎゅっと握りしめた。

「駄目、だったの」

電車のブレーキ音に掻き消されそうな、小さな呟き。

だが、母にはちゃんと聞こえたようで、何度も頷いている。大体察していたのか、驚きはしなかった。

「そっか……」

「今年こそはって、期待してたんだけど」

美帆は冗談めかすが、母は真面目な顔のままだ。

「人生、思いどおりにはいかないものだねえ」

「うん」

「なかなか難しい」

「うん、本当に」

そのとおり、計画どおりにはいかない。失恋は痛かった。

父親を反面教師に、規則正しい生活とルールに則った人生設計。それが幸せへの道だと信じていたのに、そんな生き方がかえって計画を台無しにしてしまうなんて。
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